今回は2014年に公開された戦争映画「アメリカン・スナイパー」の感想を語っていきます。
本作はイラク戦争で伝説的な記録を残した狙撃手クリス・カイルの自伝を元に制作された映画です。
迫力ある戦争シーン、軍人やその家族の思いなどが丁寧に描かれており、国内外で高い評価を得ている作品でもあります。
監督はクリント・イーストウッド。主人公クリス・カイル役ではブラッドリー・クーパー、カイルの妻タヤは、シエナ・ミラーが演じています。
2022年7月現在、配信サービスではNetflixであれば視聴可能です。Amazonprimeでは有料での配信となっているようです。
詳しくは公式ホームぺージをご確認ください。
Blu-ray&DVDも発売されており、価格は通常版なら1000円弱とかなり安くなっているようです。
気になった方は購入を検討されてはいかがでしょう。いい映画ですので、きっと後悔はしないはず!
内容についてはこちらも公式ホームページでご確認を!
あらすじ
国を愛し、家族を愛し、戦場を愛した男___。
描かれるのは伝説のスナイパー、クリス・カイルの半生だ。テキサス州に生まれ育ち、少年の頃の夢はカウボーイか軍人。2003年にイラク戦争が始まってから4回に渡り遠征。その常人離れした狙撃の制度は1.9Km向こうの標的を確実に射抜くほどだったという。公式記録としては米軍史上最多の160人を射殺。味方からは伝説の狙撃手と英雄視される一方、イラクの反政府武装勢力からは「ラマディの悪魔」と怖れられ、その首には18万ドル懸賞金がかけられた。
映画『アメリカン・スナイパー』オフィシャルサイト (warnerbros.co.jp)
個人的評価
おすすめ度 | ★★★★★ |
ストーリー | ★★★★★ |
演 技 | ★★★★★ |
音 楽 | ★★★★☆ |
映像・演出 | ★★★★☆ |
狙撃がメインの作品てスタイリッシュな物が多いような印象を私は持っているのですが、本作は実話を元にしているだけあって狙撃手、あるいは軍人のリアルな仕事っぷりを体感できます。狙撃ポイントでは糞尿垂れ流しなのはびっくりしました。とはいえ多少の脚色はあるようですがねw
本作は実話に則ったストーリーも素晴らしいですが、特に目を引いたのは、俳優たちの演技でした。
登場人物ほとんどの人の演技がすごくいいんですよね。監督が名優イーストウッドということもあり、演技面での監修は力を入れているのかもしれません。
この俳優陣の力演が、脇役などいない、みんな心があって自分の人生があるという思いにさせてくれます。
映像・音楽といった要素も映画の緊張感の増幅や登場人物の心理描写を想像させるのに一役買っていたと思います。
すべての要素に置いて完成度の高い映画だと思います!高評価なのも頷けます。
戦争映画好きの方はもちろん、ヒューマンドラマ、家族物の作品が好きな方にもおすすめです。ただ、作中で一部残酷な描写があるところにはご注意ください。
映画の尺は2時間12分と少し長いくらいのボリュームだと思います。戦争という重いテーマを扱うので疲れる映画ではあります。
とはいえ戦争が人々にどのような傷跡を残すのかを戦争に縁遠い日本で知れるという意味では、見てほしいなと個人的には思います。
また、本作と同じクリント・イーストウッド監督作品の「ハドソン川の奇跡」もレビューしていますので、良ければそちらもどうぞ!
感想と考察
さて、ここからはネタバレありで感想を語っていきますので、未視聴の方はご注意ください。
クリス・カイルという男の人生の物語
本作はクリス・カイルという男の幼少期から現在に至るまでを詳細に描いています。
彼は基本的に仲間想いで自分の近しい人たちや家族に優しい人物です。ですが、戦場では敵勢力を悪と割り切り、冷静な判断を下せる人物でもあります。
そんなクリスという人物を形成する上で、幼少期の父の教えは大きく影響を与えていたように思います。
父は、子供のクリスたち兄弟に、羊(被食者)を育てているつもりはないが、狼(捕食者)にはなるな。番犬(羊を守る者)になれという事を言っています。
このような父親のもと、クリスはまさに弱者を守る番犬のような人物に育ちます。
また、幼少期から父に狩りを教えてもらっていた事が狙撃兵としての才能の開花を手助けしていたようですね。
そんなまさに強い人間のクリスですが、軍に入る前は弟とともにロデオに明け暮れるけっこうちゃらんぽらんな日々を送ります。
しかし、アフリカ諸国で起きたアメリカ大使館爆破テロ事件をきっかけに彼は軍への入隊を志願します。
過酷な訓練を突破し、晴れてネイビーシールズの一員になったクリス。この頃にタヤと出会い、のちに結婚します。
ロデオ時代に付き合っていた彼女には結構無理を強いていたようですが、クリスが訓練を経て成長したのか、タヤにはとても優しく接していましたね。
そして、アメリカ同時多発テロ事件を皮切りにはじまったイラク戦争が勃発します。
クリスにもタヤとの結婚式の最中、イラクへの派兵が決定します。
人を撃つ重責
以後クリスは四度に渡るイラク派遣を経験します。
訓練時代から買われていた狙撃技術で敵を倒していくクリスですが、最初の狙撃対象は子供と母の親子でした。彼らが爆弾と思わしきものを持って戦車隊の前に現れたからです。
もし彼らが非戦闘員ならば、いきなり軍法会議にかけられるような状況です。しかし親子は爆弾を持って前方の戦車部隊に突っ込もうとしため、クリスは射撃を決断し二人を銃殺します。
結果的に仲間を救ったクリスですが、この出来事は彼に強い不快感と後悔を与えます。
クリスは除隊までに公式記録で160人を現地で射殺したとのことですが、これには数字だけでは量れない重責と苦悩があったと思います。
ただ銃に指をかけて人を射抜くだけじゃないですからね。様々な状況下で相手が戦闘員なのか非戦闘員なのかを判断し、自らが法で裁かれるリスクを背負いながらの狙撃。当然遠くの標的と話すことなんてできません。
先述の親子もそうですが、見て見ぬふりを通せば自分が軍法会議にかけられる心配はないでしょう。それでも仲間の無事を第一に考え、対象が行動に移す前に排除する。
この判断は並大抵の人にはできないでしょう。彼の狙撃記録はそういった責任感の表れでもあるかもしれませんね。
蝕まれていくクリスの心
戦場で仲間を守るために戦うクリスですが、それでも戦争である以上味方にも死傷者はでます。
クリスは任期を終えてタヤの元に帰っても心ここにあらずといった様子。戦地の仲間が気になっていることが半分、もう半分は彼自身が戦場の壮絶な経験を忘れられないでいました。ちょっとした物音にも過敏に反応してしまいます。
クリスは以降のイラク派遣でもこれを繰り返します。タヤには帰国する度に「心も帰ってきてほしい」と訴えられますが、クリスは仲間のためとイラクに向かってしまいます。
最後の遠征で、クリスは軍の仲間に自分達のしていることが正しいのか相談を受けますが、クリスは自分たちが敵をやっつけることでアメリカも守られていると主張しているシーンが印象的でした。
多くの人を射殺してきたクリスには、相手側に正しい主張や心があるなど信じたくなかったのかなと思います。
戦場でそんな半端なことを考えていたら自分が殺されてしまうでしょうし、何よりそんなことばかり考えていたらおかしくなってしまうのはクリスです。ある種の防衛本能が働いていたのかなと。
そして四回目のイラク派遣。近しい仲間を二人失い、さらにはムスタファとの戦闘。辛うじてムスタファの狙撃に成功し帰還するものの、彼の心はもう限界でした。彼はその後引退を決めます。
しかし引退したからと言って簡単に日常生活に戻ることは叶いませんでした。
家にいても常に神経をとがらせ、ピリピリしています。挙句には犬と子供がじゃれているところみて、子供が殺されると思ったのか、犬を殴り殺そうとします。
ギリギリでタヤがクリスを止めますが、あまりに異様なクリスの姿にタヤは心配します。
その後退役軍人病院を受診したクリスはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されます。
PTSDとは精神疾患の一つで、主な症状としてはトラウマになった体験のフラッシュバック、トラウマの原因になった出来事に対する回避行動などがあげられるそうです。
その後医師の勧めもあり、病院にいる退役軍人たちから話を聞きます。
彼らはみな戦争で何かを失った人たちでした。腕や足、酷ければ下半身が地雷で欠損した人も…
彼らと過ごすうちにクリスの中で戦場でたくさんの物を失った彼らを助けたいという気持ちがクリスに芽生えます。
クリスの引退後の活動、そして…
それからは退役軍人たちとともに射撃訓練場に足を運ぶようになります。
和気あいあいとした雰囲気で射撃を楽しむクリス達。
そんな日々を繰り返すうちにクリスの心も少しずつ回復していったように見えました。
子供たちとの関係も良好です。
史実では退役軍人たちのためのNPO法人を作ったりもしていたようです。
しかし、ある日クリスと同じPTSDを患った退役軍人の若者と射撃訓練場に向かったところ、彼から銃撃に遭い、クリスは亡くなってしまいます。
映画はクリスがこの若者と射撃場に向かうシーンで終わっています。
以降は史実の話ですが、クリスを射殺した若者は、エディー・レイ・ルースという男でした。
エディもまた除隊後にPTSDを患い、苦しんできた一人です。彼は特に状況がひどかったようで、酒と薬物に溺れ、自殺未遂や異常行動を行っており、家族も途方に暮れていました。
そこに退役軍人をサポートしているクリスの話を聞き、援助プログラムを受けている最中の出来事だったようです。
エディは最終的に終身刑が言い渡されています。
イラク戦争は必要だったのか
本作は比較的思想に寄らない中道的な描き方がされていると感じました。
クリス本人はどちらかと言えば戦争肯定派でしょうがね。しかし、彼や軍人たちのその後を見ている視聴者側には、戦争が本当に正しいのか、必要かを問う内容になっていると思いました。
事実として、フセイン政権打倒後の現在でもイラク各地でISなどによるテロ活動や、民主化による宗派での対立が続いているようです。また、未だに廃墟も多く見られ、インフラや治安の改善も見込まれない状態だそうです。
アメリカもテロ事件が起こった以上黙って見過ごす訳にはいかなかったでしょうが、両方に甚大な犠牲を強いたイラク戦争が本当に必要だったのか、本作を見て分からなくなってしまいました。
総括
戦争とは何なのか、その後どのような爪痕を残すのか、そしてクリス・カイルという仲間や自国民の為に戦った軍人がいることを知れた、非常に完成度の高い映画でした。
という事で今回は「アメリカン・スナイパー」の紹介と感想でした!それでは!
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